社有林の持続可能な管理運営に向けて

社有林の基本情報

当社は、北海道を中心に全国で13,000 haもの森林(マテリアルの森)を保有する日本国内有数の大規模森林所有者です。かつては自社の鉱山や炭鉱の坑道を支える坑木の供給を目的に森林を保有していましたが、現在は、森林の生態系サービス(公益的機能)を高度に発揮させることを目標に森林管理を行っています。北海道内の8山林、10,000haでは、持続可能な森林管理への取り組みに対する第三者評価として2015年9月1日に、SGECによる森林認証を一括取得しました。

 

  • Sustainable Green Ecosystem Council endorsed by Programme for the Endorsement of Forest Certification schemes(一般社団法人 緑の循環認証会議):2003年発足。2016年6月にヨーロッパの認証機関であるPEFCと相互承認することでSGEC認証は国際認証となった。

社有林の分布と面積

社有林のCO2固定量

森林の持つ重要な生態系サービスのひとつにCO2の固定機能があります。社有林では、年間4.4万tのCO2を固定しており、これは国民約2万3千名分)と試算され、適切な森林管理により地球温暖化防止にも貢献しています。

  • 試算値の求め方: 成長量(m3)×材容積重(t/m3)×炭素換算率×樹幹に対する木全体比×CO2分子量/炭素分子量。

樹齢と炭素吸収・排出量との関係

  • 独立行政法人森林総合研究所
    (現.国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所) 
    資料を一部加工して引用。 

森づくりについて

経営理念

「天然力を活かし、機能・活用の最大化を図り、より社会に必要とされる『美しい森林』」を100年後の目指す姿としています。 
再生可能資源としての木材の生産に加え、市民のレクリエーションの場の提供、CO2固定による地球温暖化の防止、そして生物多様性の保全といった森林の多面的機能を発揮するための森づくりを行います。 

社有林の区域区分(ゾーニング)と管理方針

それぞれの社有林は、立地や環境条件が区域ごとに異なり、求められる森林の機能も変わるため、当社では、水土・生態系保全区域、保健文化利用区域、天然生林択伐利用区域、資源循環利用区域の4つの区域区分(ゾーニング)を導入し、それぞれの区域で強化すべき機能と管理方法を明確化しています。 

区域

内容

水土・生態系保全区域

水辺林等の天然生林を維持、人工林であれば天然生林へ転換を図る

保健文化利用区域

見本林の設置、森林散策、森林レクリエーション施設設置等

天然生林択伐利用区域

成長量を超えない範囲で天然生林から抜き伐りし、持続的に有用広葉樹等を生産

資源循環利用区域

脱炭素化に貢献するため人工林循環サイクルでの植林と間伐を積極的に促進

早来山林
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早来山林

水土・生態系保全区域として残した天然生林(自然に発芽した樹木でできた林)、資源循環利用区域として効率的な木材生産を図るカラマツの造林地(人の手で植えられた苗木で構成された林)が、適切なゾーニングに基づきモザイク状に配置されています。

施業の方針

目標とする森の姿を定めて、その目標に向けた施業の計画を個別の区域(小班)ごとに立てています。 
施業は可能な限り集約化して実施し、施業の効率化および収益の最大化を目指しています。一方で、経済性だけを追求するのではなく、水土保全、生物多様性保全にも配慮しています。具体的には施業に必要な路網は計画的に設計を行い、必要最低限の幅員とし土壌保全に努めることや侵入してきた広葉樹は適宜残しておき多種多様な樹木や植物が生息する環境となるように配慮しています。 

環境に配慮した人工林施業

人工林の資源循環利用区域では循環のサイクルが80年以上となる長伐期施業を導入し、大径材の生産を目指しています。広大な裸地を作らないように皆伐は小面積かつ分散させているほか、動物の移動経路や生息の場を確保するため、尾根や沢等の保全区域は皆伐しないなど、厳格なルールを設け施業を行なっています。一定面積の皆伐を繰り返す森林循環サイクルは、生物が必要とする多様な森林環境を創出し、生物多様性の保全に貢献する側面もあります。

天然生林施業への挑戦

天然由来の森は平均的に自然災害に強く、生物多様性も豊かであるなど生態系サービス(公益的機能)が全般的に高くなります。また、天然の力(土壌や光環境、潜在植生など)を最大限に活用することで森林整備コストを最小限にとどめ、経済と環境の両立の実現を目指しています。天然生林では枯渇の懸念がある広葉樹について、多様な樹種の育成をし、広葉樹資源の回復、家具材などへの供給を目指します。 

具体的な取り組み

上記の方針を実践する取り組みとして、従来型の作業システムに加えて育成木施業、小型重機と小規模幅員の作業道を組みあせた作業システム、馬を活用した集材(馬搬)も適宜取り入れています

小規模幅員の作業道
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小規模幅員の作業道
馬搬
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馬搬

資源の有効活用

木材は優れた再生可能資源のひとつです。当社は、年間約1万㎥の木材を産出し、この木材は建築用材から木質バイオマス燃料まで、あらゆる原料・燃料として社会に供給されています。
社有林が生み出された木材を目に見える形での供給も行っています。本社の食堂テーブルや森林管理部門がある札幌オフィスの会議テープルや椅子といったオフィス家具等として活用し、まずは自社内で循環利用を実践していましたが、近年は社有林が所在する安平町の小中一環の義務教育学校の梁や柱材、札幌市内のオフィスビルの構造材、同市内の商業施設への家具材の供給なども行っています。

間伐材を社会に供給
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間伐材を社会に供給
本社食堂のビッグテーブル
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本社食堂のビッグテーブル
社有林材が使用された校舎
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社有林材が使用された校舎
札幌オフィスの会議テーブル
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札幌オフィスの会議テーブル
商業施設のテーブル
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商業施設のテーブル
オフィスビルの構造材
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オフィスビルの構造材

地域に愛される森へ

社有林は、会社の資産であると同時に、その地域を形成する重要な自然遺産のひとつです。適切な森林管理により、水源涵養機能、土砂流出防止機能、レクリエーション機能等の生態系サービスの質を向上させ、地域社会に貢献していきます。

地域活動フィールドとして社有林の提供

都市近郊に位置する手稲山林(札幌市)は、市中心部からの交通アクセスが良いため、札幌市市民の森、自然歩道、青少年キャンプ場等の用途で一部を提供しています。また、地元NPO団体が主催する自然体験活動や、大学等の研究機関の研究フィールド等としても利用されています。

社有林を地域の方に利用いただくだけでなく、植樹祭や育樹祭等の環境イベントを開催し、生物多様性をはじめとする森の大切さや楽しさを知ってもらう取り組みを積極的に推進しています。

社有林で環境イベントを開催(樹名板の製作)
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社有林で環境イベントを開催(樹名板の製作)

教育活動の実施

社有林のある市町の小学生を対象とした教育プログラムの中で森林の授業を実施したほか、「マテリアルの森」を林業体験のフィールドとして提供しました。このプログラムでは、授業や動画で森林について学んでもらった後に、植栽や伐採作業などの活動を実際に見学・体験いただくことで、地域の森林について子どもたちに学びを深めていただくとともに、当社と地域との結びつきを深めています。 
森林整備で発生した広葉樹の端材を用いて、自然との触れ合いの場としてマテリアルの森を活用していただいている保育園への木の卒園証書の寄贈等の活動を継続しています。 

従業員による森林の授業(北海道 上厚真小学校)
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従業員による森林の授業(北海道 上厚真小学校)
マテリアルの森での森林体験プログラム
(札幌市子ども会育成連合会主催SDGsイベント)
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マテリアルの森での森林体験プログラム
(札幌市子ども会育成連合会主催SDGsイベント)

自然災害被害地域での支援活動

過去に発生した自然災害による被害地域で継続的な支援活動を実施しています。2016年に台風被害に遭った北海道森町では、町有林の復旧整備に取り組み、同箇所でのイベントを実施しています。2023年には地域住民を対象にした植樹と木育のイベントを実施し、40名が参加しました(2024年は降雨のため中止)。2018年に北海道胆振東部地震で被災した厚真町では、同町の2つのこども園に、社有林の木を活用して製作したクリスマスツリーの寄贈と植樹イベントを実施しています。2024年の植樹イベントでは園児32名が参加しました。

胆振東部地震で被災した厚真町保育園
にクリスマスツリーを寄贈
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胆振東部地震で被災した厚真町保育園
にクリスマスツリーを寄贈

生物多様性保全に向けた取り組み

生物多様性保全の方針

社有林は、多様な生物の生息地として非常に重要であるため、木材生産等のさまざまな活動が生物の生息環境に悪影響を及ぼさぬよう細心の注意を払っています。 

特に生物の移動経路である尾根林や河畔林等の「緑の回廊」は、野生動物の生息地の拡大や相互交流にとって非常に重要な森林であるため、原則として皆伐を禁止しています。皆伐を実施する場合は、小面積かつ分散させるようにし、伐採による生物多様性の低下を最小限に留めるようにしています。また、長期的な視点で収益の確保が難しいと判断される人工林区域は、生物多様性が豊かな天然生林への誘導を目指しています。そのほかにも、針葉樹主体の資源循環利用区域においても自然に侵入してきた広葉樹を残すことで林内の構造を多様化させる「針広混交林施業」を一部で導入することにより、生物多様性の保全につながる森林整備方法も取り入れています。

モニタリング

日常的な巡視活動や、山林内への多数の定点モニタリング地点の設置により、動植物の生息状況を定期的に把握しており、森林整備による改善効果、あるいは悪影響がないか確認しています。また、立木の伐採を行う際は、伐採前後で動植物に悪影響が生じていないことを確認するため、別途モニタリング調査を行っています。伐採前のモニタリングにより、事前に希少動植物が生息していることが判明した場合には、影響を与えないように計画の変更を検討します。 
生息を確認した希少動植物種(環境省や北海道が定めるレッドリストにある上位危惧種)は、「三菱マテリアル社有林希少動植物レッドリスト」として取りまとめ、林内へ立ち入る関係者を対象に定期的に研修会を設け、生物多様性の保全に努めるよう注意喚起をしています。 

日常モニタリング活動
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日常モニタリング活動
動物撮影用定点カメラ
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動物撮影用定点カメラ
エゾクロテン
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エゾクロテン
クマゲラ
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クマゲラ
サクラマス
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サクラマス
クリンソウ
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クリンソウ
カタクリ
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カタクリ
フクジュソウ
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フクジュソウ
シラネアオイ
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シラネアオイ

OECM(自然共生サイト)

環境省の30by30目標に貢献する取り組みとして、手稲山林全域において自然共生サイトの認定を取得しています。保護地域を除いた区域がOECMとして登録されています。 

社有林における生物多様性保全方針

  1. 施業に当たっては、別に定める「生物多様性の保全に配慮した施業指針」に従い、生物多様性の維持・保全のため、多様な植生、多様な育成段階からなる健全なバランスの良い、健全な森林の確保と貴重な動植物の育成環境の保全に配慮する。
  2. 貴重な自然植生、動物等について生育・生息可能性の高い種を抽出し、「貴重な自然植生、動物等一覧表」を職員及び請負業者(作業従事者)に配布し、現場に出向く際に携帯させモニタリングを実施する。
  3. ネイチャーポジティブや 30by30 目標に貢献するため自然共生サイト認定などの生物多様性保全に資する活動を推進する。
  4. 専門家による現地研修会等を実施し、職員の知識向上を図る。

(社有林管理経営計画書より抜粋)

社有林の価値創出・向上に向けた取り組み

社有林の発揮している公益的機能の経済価値評価

当社は鉱山開発(鉱石産出)のルーツにより全国でも有数の面積の森林(マテリアルの森)を保有していますが、森林には木材生産や水土保全、レクリエーションの場所の提供といった様々な機能(公益的機能)があります。この公益的機能は生態系サービスという形で私達の日々の生活において恩恵(便益、アウトカム)を受けています。
マテリアルの森ではネイチャーポジティブに向けた社会への貢献として、森林整備を通じた木材の提供や環境教育などの社会貢献活動に取り組んでいますが、これらの活動により発揮されている公益的機能にどういったものがあるか、また整備により得られる便益が経済的な価値に換算してどの程度になるかを定量的に評価することとしました。
間伐などの森林整備や環境教育イベントなどの社会貢献活動により生み出している便益は30団地で年間約23.7億円に上りました (生物多様性保全便益を除く)。生物多様性保全便益は算出の考え方において課題が残っていることもあり他の便益の合計には含めないこととしましたが、年間約31億円となることがわかりました(下図参照)。

評価においては、各団地の管理状況を反映していることから、それぞれの団地の整備方針にもこれからの結果を活用することとし、当社社有林の目指す姿である「100年後の美しい森林」に向けた取り組みを進めていきます。詳細については、環境システム研究論文発表会に投稿されている論文資料をご確認ください。

デジタル化の推進

安全の確保や業務効率化を目指して各種デジタルツールも導入しています。ドローンを用いた資源調査や安全や生物多様性に関する項目についてタブレット端末やスマートフォンを利用した記録などを実施しています。今後はLiDAR技術を活用した森林管理、不感地帯におけるデジタルツール活用領域の拡大を検討しており、更なる業務効率化を目指しています。

ドローンの活用
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ドローンの活用
GPS機器の活用
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GPS機器の活用

社内人材育成

「森づくりは人づくり」という言葉があります。当社でもその考えを大事にして森林管理者である「フォレスター」の育成に努めています。階層に応じて必要な知識や経験を定めて、年間を通して教育計画を立てています。必要な内容として、森林内での調査に関するものや安全や生態系に関する知識、法令などがあります。
また、経験が豊富な国内外のフォレスターを招聘し、彼らを講師とした現地研修を実施しています。現地研修では森づくりに必要な「観察力」を磨きながら、フォレスターに必要なスキルを高めています。

社有林内での集合研修
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社有林内での集合研修