生物多様性への配慮

基本的な考え方

生物多様性保全課題については、2019年のIPBES(Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services. 生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)の地球規模評価報告書において自然が世界的に劣化し、自然変化を引き起こす要因が過去50年間で加速していることが科学的な根拠を元に指摘されています。世界は、2022年に生物多様性条約締約国会議(COP15)における「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択を受け、2030年に生物多様性の損失を止め反転させる、いわゆるネイチャーポジティブ(自然再興)達成に向けた社会経済活動が企業にも求められています。
当社グループは、行動規範第5章に「生物多様性に配慮して、自然との共生に努めます」と定め、生物多様性への配慮を事業の基本姿勢として社内外に明示しています。環境方針では「天然資源の開発等を含めバリューチェーン全体において生態系に配慮した事業活動を行います」としており、生物多様性問題に関する社会環境の変化を踏まえて当社としての取り組み方針をより具体化することが必要と考えられることから、当該環境方針に基づく詳細な方針として、生物多様性保全方針を制定しています。

情報の開示

当社グループは、2023年9月に発表されたTNFD※の提言に基づき、当社事業の生物多様性に関する依存と影響およびリスクと機会について適切に分析を行い、開示を進めていくこととしています。2025年5月に分析結果に基づきTNFDレポートを作成し、当社グループの事業活動による自然に対する依存と影響の評価、主な活動場所における自然との接点についての評価、自然との関わりが大きい事業のリスクと機会の評価などについて開示しています。当レポート作成にあたり、2023年度は事業規模の大きい事業所や自然への影響が大きいと考えられる3拠点についてLEAPアプローチに基づく試行的な分析を実施し、2024年度に主要な事業や拠点に関する分析を実施しました。今後はこの分析に基づき具体的な対応や目標を取りまとめていくこととしています。

  • Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(自然関連財務情報開示タスクフォース)の略。2021年6月設立。

戦略

事業活動と生物多様性に関する依存と影響の把握

事業における依存と影響の把握のため、『ENCORE』を用いて評価を行いました。ENCOREとは、組織が自然関連リスクへのエクスポージャー(感応度)を調査し、自然への依存と影響を理解するためのオンラインツールです。ENCOREによる評価は業種の一般論であるため、評価は自社事業の実態や特徴をふまえて定性的な補正を実施しています。評価はENCOREの評価に倣い、高い順からVH, H, M, L, VLの5段階評価を実施し、ヒートマップを作成しました。ヒートマップの5段階評価は、評価が高ければ悪いというものではなく、リスクだけでなく機会も考慮した結果で、ポジティブ・ネガティブによらず生じ得る依存や影響の度合い・関係性の強さを示すものです。評価が高くなったと項目について考えられる主な理由や特徴は以下のとおりです。

  • 自然との接点がもともと大きい銅の調達や再生可能エネルギー事業等は、土地使用面積や土壌関連の項目の評価が大きく出る傾向にありました。
  • 水に関する項目は事業横断的に影響が高くなる傾向になりました。これは製造工程において化学物質や重金属が排出されることによる土壌や水を汚染する可能性があることからと考えられます。
  • 外乱の項目が高い事業もありましたが、機械の稼働音や照明による生態系への影響が懸念されることからと考えられます。

項目

鉱山

投資

非鉄

金属

製錬

金属資源循環

銅加工

電子材料

(半導体、自動車関連等)

加工

再生可能
エネルギー

休廃止
鉱山
管理

森林
管理

銅精鉱調達

金属
リサイクル

家電
リサイクル

デバ
イス

基礎
化学品
製造業

その他
ゴム
製品
製造業

他の
金属
製品
製造業

超硬
工具

地熱
発電

水力
発電

坑廃水
処理

依存

バイオマスの供給

VL

VL

VH

淡水供給

H

M

M

M

M

M

M

L

M

M

M

VH

M

H

グローバル気候
規制サービス

H

VL

VL

VL

VL

VL

VL

VL

VL

VL

M

VL

VH

降雨パターンの
調整

VH

M

M

M

M

VL

VL

M

VH

大気浄化

VL

M

M

M

M

VL

VL

VL

VL

L

H

土壌と土砂の保持

M

L

VL

VL

M

L

M

L

L

L

H

VH

M

VH

水質浄化

VH

M

M

M

M

M

M

M

M

L

L

VH

水流調整

H

M

L

L

M

M

M

M

M

M

M

VH

M

H

洪水緩和

H

M

VL

VL

M

M

M

M

M

M

M

VH

M

H

影響

淡水利用面積

VH

H

M

M

温室効果ガス以外の大気汚染物質の排出

H

H

M

M

M

L

M

M

L

L

H

H

水や土壌への有害汚染物質の排出

VH

VH

M

M

H

H

VH

M

VH

M

M

H

M

固形廃棄物の発生と放出

H

M

M

M

L

L

M

M

L

L

VL

L

H

L

外乱
(騒音、光など)

VH

VH

H

H

H

M

VH

M

M

M

M

H

M

H

事業拠点と自然との接点に関する評価

TNFDの開示基準に則り、当社の活動場所の中から優先拠点を選定しました。選定にあたっては以下の点を基準に選定しました。

  • 全活動場所について「影響を受けやすい場所」と「重要な場所」の評価を実施
  • 全活動場所の中から、事業活動による自然に関する依存や影響の大きい場所(工場や社有林等)を選定
  • 事業活動による自然に関する依存や影響の大きい場所のうち「影響を受けやすい場所」と「重要な場所」のいずれかにあてはまる場所を優先地域として特定

TNFDでは、優先地域を「影響を受けやすい場所」と「重要な場所」の観点で評価し、両方に該当する地域を抽出するという開示基準があります。「影響を受けやすい場所」の定義は5つ設けられており、評価においては、少なくとも1つ以上の基準を満たす必要があります。
本検討では、TNFDの「影響を受けやすい場所」の定義のうち「生物多様性にとって重要な地域※1」および「生態系の完全性が高い地域※2」について、共通指標として、評価対象の全拠点での評価を実施しました。
また、Evaluateフェーズで重要度の高い依存・影響項目があると評価された事業は、自然に関する重要な依存・影響項目に個別指標を設定し、「重要な場所」の評価を行いました。その後、事業活動により生態系や環境への影響を与えうる場所としてオフィス以外の工場や社有林等を抽出しました。では、事業活動により生態系や環境へ影響を与えうる場所のうち、「影響を受けやすい場所」と「重要な場所」のいずれかにあてはまる場所を優先地域として特定しました。評価結果では95拠点が優先的に活動する場所と評価されました。Assessでリスクと機会に対する取り組み状況を確認する際は、この優先地域から評価することにしました。

また、多くの拠点が優先地域と判断されたことから、拠点単位の動植物の生息状況の把握や生産金額、事業活動量などを基準にスクリーニングをかけて、さらに優先順位をつけていくことを検討していきます。具体的な取り組みとして国立科学博物館の資料による文献調査を行い、それに基づいた現地調査も検討しています。

  1. 以下の条件を満たす地域のこと。具体的には法で定められた保護地域や世界遺産地域などを指す。
    ・地域、国内、国際レベルで、優先的に保護されるべき生態系であると認識されている
    ・その場所の生態系/生息地が地域固有のもの、もしくは非常に局所的である
    ・その場所には絶滅危惧種が生息しており、高い絶滅リスクがある
    ・利害関係者にとって重要な文化的、経済的役割を担っている(水供給、レクリエーション等)
    評価ツールとしてIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool(生物多様性統合評価ツール))を使用。
  2. 生態系が生態学的プロセスや多様な生物群集を維持・存続させる能力。生態系の完全性が低い地域は、生態系資産または生態系サービスの劣化/損失がある。 評価ツールとしてWWF Biodiversity Risk Filterを使用。

評価結果では活動場所322拠点の内、95拠点が優先的に活動する場所と評価されました。Assessでリスクと機会に対する取り組み状況を確認する際は、この優先地域から評価することにしました。
また、多くの拠点が優先地域と判断されたことから、拠点単位の動植物の生息状況の把握や生産金額、事業活動量などを基準にスクリーニングをかけて、さらに優先順位をつけていくことを検討していきます。具体的な取り組みとして国立科学博物館の資料による文献調査を行い、それに基づいた現地調査も検討しています。

国立科学博物館による希少種生息状況についての文献調査

LEAPアプローチで用いたツールは世界的に共通で使われているものですが、特に日本に特化して詳細な分析を踏まえた確認も行うべく、国立科学博物館が所蔵する維管束植物(種子植物・シダ植物)標本のデータベースを活用し、国内拠点での生息状況の調査を行いました。
調査は、当社直接操業の製造拠点および再生可能エネルギー発電事業区域、休廃止鉱山、社有林計58ヵ所を対象とし、以下の作業を実施しました。
 

  1. 社有地について、GISデータあるいは住所に基づいて該当する第二次地域メッシュ(1辺約10km)を抽出。複数メッシュにまたがる場合は該当するものすべてを抽出(70メッシュ)
  2. 国立科学博物館が所蔵する維管束植物(種子植物・シダ植物)標本のデータベースから、社有地のメッシュに該当するデータを抽出
  3. 環境省レッドリスト2020、都道府県レッドリストのいずれかに合致する標本レコードを抽出

 

調査結果は、社有地のある計70の第二次地域メッシュで記録されたレッドリスト掲載種として、計1,642標本が該当しました。
レッドリスト別では、環境省と都道府県の両方掲載が577点、環境省レッドリストのみ掲載が138点、都道府県レッドリストのみ掲載が927点になりました。

標本については1800年代や1900年代前半に確認された掲載種もあり、現在は確認できるか不明な種もあることから、今後は多くの希少種の標本が見つかった拠点を中心に現地調査を実施し、生息状況の確認を行うことを検討していきます。

リスクと機会の分析

リスクと機会の分析については、ENCOREの結果や自然との接点の大きいと考えられる事業であることを踏まえ、水力発電、地熱発電、坑廃水処理の3事業を選定し、当社グループの中での売上の割合が大きく自然によるリスクと機会による影響への大きさを考慮して、非鉄金属製錬事業を選定しました。分析によりあげられたリスクと機会の主なものは、以下のとおりです。優先すべきリスクと機会については、★をつけています。
(非鉄金属製錬事業および水力発電事業は2024年1月に実施した試行分析の結果、地熱発電事業および坑廃水処理事業については2025年1月に実施した結果です)

非鉄金属製錬 リスク・機会

No.

リスク・機会のカテゴリー

想定される主なリスク・機会と事業活動の変化

1

物理リスク

慢性

排水熱による磯焼けの助長

2

移行リスク

政策・法的

CO2排出量の規制や炭素税の導入による財務影響

3

近隣の海の磯焼け進行による排水の温度規制

4

市場

よりCO2排出量の少ないプロセスで生産された製品を他社が開発した場合の競争力低下

5

技術

排水の熱を下げて排出するための設備投資に伴う財務影響

6

機会

資金の流れと融資

排出量取引制度等のCO2削減に対する政策的支援やインセンティブの享受

7

磯焼け防止のための藻場の再生による地域貢献、ブルーカーボン・クレジット制度の活用

8

評判資本

地域レベルでの利害関係者との協力的な関与(藻場の再生活動など)

水力発電 リスク・機会

No.

リスク・機会のカテゴリー

想定される主なリスク・機会と事業活動の変化

1

物理リスク

急性

洪水等による発電所の設備損傷や油の流出等による水質汚染等の突発的な事故

2

慢性

気候変動の影響等による異常豪雨の頻発や年間降雨量の変化に対するダムの洪水調節機能の対応、発電計画の不安定

3

機会

製品/サービス

自治体や調査機関等と連携し、ダムおよび周辺地域の生態系把握の継続、開示、環境維持に努め、再生可能エネルギー電力の継続供給の推進

地熱発電 リスク・機会

No.

優先度の高い
影響依存関係

リスク・機会の

カテゴリー

想定される主なリスク・機会と事業活動の変化

1

【依存】

土壌と土砂の保持

物理
リスク

急性

土砂崩れ、事業実施エリアの崩壊による操業停止や、修復作業の費用負担が発生

2

【影響】

温室効果ガス以外の大気汚染物質の排出

移行
リスク

市場

投資家の環境意識の高まりに伴うESG投資の活発化による株価の不安定化

3

【影響】陸域生態系の利用

政策

陸域生態系への影響が懸念され、保護エリア設置など、陸域生態系の保全に関する規制強化により事業活動エリアに制限が設けられる。事業活動の制限による制限に伴う売上の減少

4

開発・採掘活動による陸域生態系への影響が懸念され、操業エリア内の自然再生など、陸域生態系の保全に関する規制強化により対応要請が強まり、植樹など規制対応のための負担が増加

5

【影響】

温室効果ガス以外の大気汚染物質の排出

機会

資本・資金

ESG投資の呼び込みによる、株価の安定化

6

資源効率

業務効率化として処理プロセスの最適化を行ったことによる人件費の削減

抗廃水処理 リスク・機会

No.

優先度の高い

影響依存関係

リスク・機会の

カテゴリー

想定される主なリスク・機会と事業活動の変化

1

【影響】水や土壌への有害汚染物質の排出

移行
リスク

評判

水質や土壌汚染に伴う生態系の破壊によるブランド価値の低下から売り上げが減少する

2

【影響】固形廃棄物の発生と放出

責任

新たな規制(法令)に違反した場合は、罰金や制裁措置が課される。

3

【影響】水や土壌への有害汚染物質の
排出

機会

評判

最終鉱業権者としての責務を全うすることによる行政等ステークホルダーの信頼獲得。評判の向上により、事業継続性も向上する

4

【影響】陸域生態系の利用

生態系の保護、回復、再生

休廃止鉱山周辺生態系の保護、回復、再生のための活動を実施

生物多様性に関するガバナンス

当社は、サステナビリティを分掌するCSuOのもとで生物多様性保全問題への対応を含むサステナビリティ課題への対応を行っています。また、生物多様性保全に関連するリスクと機会への当社グループの戦略的取り組みについては、専門部署を設置し、当社グループの生物多様性保全対応を企画・推進しています。さらに、地球環境グループが事務局を務める「地球環境委員会」では、生物多様性保全に関する社内啓発、活動方針の制定、TNFD提言に基づいた自然関連課題の把握、自然関連のリスクおよび機会の評価・管理、ネイチャーポジティブな社会に向けた活動計画の作成およびその他生物多様性保全に関する協議、情報共有等を推進しています。これらの取り組みは、戦略経営会議、取締役会に報告され、適切にモニタリングされています。(戦略経営会議・取締役会における審議・報告事項)

 

取締役会では、サステナビリティに関する取り組みのモニタリングに留まらず、異なる視点からサステナビリティへ取り組む方向性を能動的に検討し、社内に示していくことを目的に、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会を設置しました。本委員会は、生物多様性保全関連の当社の取り組みに関するモニタリングおよびその方法、課題について検討し、その内容を取締役会に報告します。

生物多様性に関するリスクマネジメント

当社グループでは、本社管理部門においてグループ全体で共通性や優先度が高い、事業運営に深刻な影響を及ぼす重大リスクを特定・評価しています。一方、各事業分野における固有の重大リスクは本社事業部門が特定し、各事業拠点における固有の重大リスクと合わせて包括的に重大リスクを管理しています。
それぞれの重大リスクの特定・評価、対策の実施状況は、当社のSCQ推進本部、戦略経営会議で協議し、モニタリングしています。これらの会議体ではCHRO(Chief Human Resources Officer)が実効責任を担い、監査委員会からも独立して運営しています。また、取締役会では、そのプロセスの実効性について検証、見直しを実施し、ESGリスクを含めたリスクマネジメントを総合的に監督しています。
教育面では、リスクマネジメントの概要から具体的な進め方までを網羅する社内研修や外部講師を招いたリスク感性向上セミナーを実施し、活動品質の向上に努めています。
自然関連課題においても、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を及ぼす可能性がある主要なリスクのひとつとして認識し、当社グループのリスクマネジメント活動の中で取り組みを進めています。
当社グループのリスクマネジメント体制および運用状況、重大リスクの選定プロセス等の詳細は、当社サステナビリティレポート2024内の「グループガバナンスによる内部統制の拡充」で開示しています。

指標と目標

当社グループでは気候変動や資源循環に関する取り組みも合わせて進めており、自然に関連して設定している目標は以下のものです。本レポートに記載以外の内容については、今回の評価結果を参考に、指標目標を検討していきます。

 

気候変動に関する目標→「気候変動(TCFDに則った開示)-指標と目標」をご参照ください。
プラスチックに関する目標→「汚染防止-廃棄物管理」をご参照ください。

具体的な取り組み

鉱山における生物多様性への取り組み

当社は、銅製錬の主原料である銅精鉱を海外鉱山からの輸入に依存しています。当社では、銅精鉱の安定調達のために海外鉱山への出資を進めていますが、投資先鉱山においては、法令遵守および “Social License to Operate(社会的営業許可)”という考え方を重視し、レクラメーション(再生)に取り組み、生態系への影響最小化に努めています。各投資先鉱山では、当該国・地域の法律や「持続可能な開発のための10原則」等の国際的な取り決めに定められた環境影響評価を実施し、行政、地域住民等のステークホルダーとの対話を通じて、適切な閉山計画の策定を行っています。
当社が出資した銅鉱山(カッパーマウンテン(カナダ)、エスコンディーダ(チリ)、ロスペランブレス(チリ)、マントベルデ(チリ))では、いずれも採掘事業の開始前に適切な環境影響評価が実施され、開始後も継続的な環境モニタリングが実施されています。また、開発プロジェクトであるサフラナル(ペルー)では2023年5月に環境許認可を取得し、ナモシ(フィジー)においても、環境影響評価のための基礎調査の実施と生物多様性保全のためのデータ収集を行っています。
カッパーマウンテンでは、社会・環境との共生を図る上で社会の期待や環境規制の要件も考慮し、カナダ鉱業協会の持続可能な鉱業に向けた(TSM)イニシアチブの鉱山閉鎖フレームワークとも連携した閉山計画を作成しています。この計画に基づき、生物多様性の保全管理とレクラメーション(再生)に取り組んでおり、環境負荷の最小化に焦点を当て、閉山前にレクラメーション可能な領域を増やしています。具体的には、絶滅危惧種、保護地域、重要生息地等その土地の状況や事業活動による影響度を特定した上で、物理的安定性の向上、水質と水路の保護、土砂保持と侵食制御、土壌の回収と、適切な植生の確保、外来種の排除など、最終的な土地利用とレクラメーションを達成するための戦略を策定し、責任をもって対応しています。これらの戦略は、植生、野生生物、水、水生成分の生物多様性保全を管理する計画、およびレクラメーションの詳細なモニタリング計画とともに、カッパーマウンテンの生物多様性保全管理計画に記載されています。
マントベルデでは、開発プロジェクトを通じて得た生物多様性データを、生物多様性に関する情報共有ネットワークであるGBIF(Global Biodiversity Information Facility)に提出しています。具体的には、グアナコ(ラクダ科ラマ属の哺乳動物)の食餌の研究やキツネの生息範囲の研究、特異種の種子収集と保存等の取り組みを行っています。
当社グループは、出資者として鉱山を運営する事業主体に対し、こうした取り組みが行われることを事前に確認し、促進しています。また、出資を行っていない鉱山からの銅精鉱調達においても、「金属事業カンパニーCSR調達基準」に則り、自然保護区域への配慮や生物多様性の保護がなされていることを確認しています。

製造拠点での取り組み

当社グループの製造事業所でも、各事業所の特性に応じて、生物多様性の保全に取り組んでいます。例えば、直島製錬所(香川県香川郡直島町)では、少雨・乾燥土壌で植物が育ちにくい状況や過去の森林火災などにより山林が一部焼失した経緯から、その植生促進と回復を目指し、年間1ヘクタールの植林活動を実施しています。また、瀬戸内の自然環境を保護するため、所内で排出される排ガスや排水については、国の基準よりも厳しく設定し、処理を徹底しています。

社有林での取り組み

当社は、日本各地に1.3万haの森林を保有し、そこに生息する動植物の生息環境に配慮する森林経営手法を実践しています。動植物のモニタリング活動や、生息を確認した希少種のレッドリスト化も行っています。北海道内の8ヵ所の山林では生物多様性にも配慮した持続可能な森林経営に関する認証を取得しています。今後も、当社グループの事業活動と生物多様性との接点に配慮し、広い視野で保全に取り組んでいきます。また、当社は2022年4月、環境省が主導する「生物多様性のための30by30(サーティ・バイ・サーティ)アライアンス」(アライアンス)に、参加企業として登録されました。本アライアンスは2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復させる(Nature Positive)国際目標の達成に向けて設立された有志連合です。日本ではこの目標達成に向け、2030年までに自国の陸域・海域の少なくとも30%を保全・保護すること(30by30)の達成を目指し、国立公園等の保護地域の拡充に加え保護地域以外の企業林等で生物多様性保全に資する地域をOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として設定することとしています。環境省はOECMを『自然共生サイト』として認定することとしており、当社の北海道の手稲山林も2023年10月に認定され、認定区域のうち保護地域との重複を除かれた区域が2024年8月にOECMとして国際データベースに登録されました。手稲山林は、札幌市の市街地に隣接する都市近郊林でありながら、多様な動植物が生息しています。その生物多様性を保全するための森林整備における環境負荷の低い作業システムの採用や、デジタルツールを活用したモニタリング活動などが評価されました。

  • Other Effective area-based Conservation Measures、公的な保護地域以外の企業林などで生物多様性保全に資する地域

銅・金鉱床開発プロジェクトでの環境影響評価

ペルー南部に位置するサフラナル開発プロジェクトでは、EIA取得の際に実施した環境基礎調査の中で、開発時に想定される環境への影響を最小限に抑制するための調査解析も行っており、動植物の生態系に影響を及ぼす可能性がある場合を想定した新たな生息域の確保等の対策を検討しています。

  • Environmental Impact Assessment (環境影響評価)
探鉱試錐調査
拡大
探鉱試錐調査
河川の水質調査
拡大
河川の水質調査

発電所における環境影響評価

安比地熱(株)の事業化における環境影響評価の実施

当社は、2015年に三菱ガス化学(株)と共同で岩手県八幡平市安比高原の西方にて安比地熱(株)を設立し、さらに2018年に電源開発(株)が加わり3社で事業化を推進しています。この事業では、2024年に14,900kWの地熱発電所の運転を開始しています。安比地熱(株)は、2015年に環境影響評価(環境アセスメント)の手続きを開始し、安比地熱発電所の設置により周辺の環境に及ぼす影響について調査、予測および評価を行いました。2018年1月に経済産業大臣より環境影響評価書に対する確定通知を受領し、2019年8月に建設工事を開始しています。

小又川新発電所での自主評価実施

当社は、秋田県北秋田市米代川水系阿仁川支川小又川において、森吉ダム直下に発電所を保有しており、その発電後の放流水を活用する新規水力発電所となる「小又川新発電所(出力10,326kW)」の建設工事を2019年5月に着工しました。新発電所の建設計画では、周辺環境に与える影響について自主環境アセスメントを行うとともに、周辺の河川環境保全のために新たに河川に適した正常流量の放流を計画しています。また、建設工事では、再生可能エネルギーである既存の水力発電所から供給された電力を使用して導水路トンネル(TBM工法)の建設を実施し、建設予定地で伐採された樹木は再資源化する等、環境に配慮した取り組みを実施しています。