「現場力」と「志と情熱」を基に、
持続可能な社会の実現に向けて挑戦と変革を続ける

社長就任から1年。舵取りにおいて、どのような「想い」を大切にしてきましたか?

─「現場力」を起点に、「志と情熱」を持って変革を自分ごと化し、実行する。

社長就任から1年、私が経営判断の拠り所としてきたのは、私たちの根幹である「現場力」、そして一人ひとりが抱く「志と情熱」です。私自身、現場で技術や知見を積み重ね、それを磨き続けることの大切さを学んできました。「現場力」とは、日々の改善や技術・知見の積み重ねを通じて、変革を実行に移す力です。
こうした現場力を未来の成長につなげるためには、事業ポートフォリオの見直しと、新たな成長の芽を育てる取り組みを両輪で進める必要があります。当社グループはこの10年、セメントや焼結部品、アルミニウムといった事業を切り離し、事業ポートフォリオの整理を行ってきました。これからは、将来の成長の芽を辛抱強く育てるとともに、事業環境の変化に左右されにくい収益基盤を築く必要があります。そのため、お客さまの期待を超える製品やサービス、すなわち「新たなマテリアル」を創造・提供し続けていきたいと考えています。
どんなに優れた戦略も、そこに血の通った「志と情熱」がなければ実現できません。私は、この想いの体現を自らの役割として受け止め、従業員一人ひとりに挑戦を続けることが重要だと訴え続けてきました。変革を他人ごとにせず、自らの行動に結び付けることで、現場力を真の競争力へと高めていくことができると考えているからです。

当社は、2026~2028年度を対象とする中期経営戦略において、「資源循環ビジネスで未来を創る企業」への変革を掲げました。鉱石依存の限界と金属資源の需要増加を見据え、当社の技術力を活かして循環型の成長へと舵を切ります。痛みを伴う変革を前に進めるのは、戦略そのものではなく、一人ひとりが自らの役割を引き受け、志と情熱を持って動く力です。私は、その自分ごと化こそが未来を切り拓くと考えています。

2025年度の総括として、業績についてどう評価していますか?

─「追い風による達成」に甘んじない。今の結果に満足することはできません。

数字のうえでは前中期経営戦略の目標を概ね達成できましたが、私はこの結果に満足していません。今回の業績は、円安や銅価格の上昇といった外部環境の追い風に助けられた側面が強いからです。厳密に前中期経営戦略の前提条件に照らせば、結果は未達です。銅精鉱の買鉱条件(TC/RC)の歴史的低迷や、地政学リスクに伴う資源輸出制限など、外部環境の変化は想定をはるかに超えるスピードで進んでいます。だからこそ、相場や為替に左右されにくい事業構造への転換を急がなければなりません。環境変化を言い訳にせず、自ら収益基盤を組み替えることが経営の責任です。外部要因に左右されない「自律的な稼ぐ力」をいかに構築するか。その真価が今、問われています。

中期経営戦略で掲げる「資源循環ビジネス」への変革。そこにはどのような使命感がありますか?

─銅資源の将来の需給ギャップを解消し、循環型社会の主役へ。

私たちは、2026~2028年度を対象とする中期経営戦略において「資源循環ビジネスで未来を創る企業」への変革を掲げました。
今、世界では銅資源が減少する一方で、xEVおよびAI・データセンター市場の進展により、銅需要の拡大が見込まれています。鉱石由来の供給には限界が見え始めており、資源をいかに安定的に確保し、循環させていくかが、社会全体の重要な課題となっています。当社は、これまで培ってきた製錬・リサイクル技術と循環ネットワークを活かして、この課題の解決に貢献できると考えています。その基盤となるのが、三菱連続製銅法による世界トップクラスのE-Scrap※処理能力、高効率なE-Scrap処理技術、そしてこれまでに培ってきたグローバルネットワークです。また、こうした資源循環の強みは、銅だけでなくタングステンにも広がっています。超硬工具の主原料であるタングステンは、地政学リスクの高まりを背景に世界的な供給不安が顕在化しています。当社は使用済み超硬工具からタングステンを再資源化する循環ループを構築しており、資源の有効活用と安定供給の両立に取り組んでいます。
素材を供給するだけでなく、資源を循環させる仕組みそのものをデザインすること。それを本業として社会実装し、安定供給と企業価値向上の両立につなげていくこと。これこそが、三菱マテリアルが果たすべき中長期的な役割であり、唯一無二の価値だと確信しています。

  • 有価金属を高濃度に含有する電子機器類の廃基盤などの総称

抜本的構造改革を断行していますが、その進捗とポートフォリオマネジメントに関するお考えを教えてください。

─ポートフォリオの再構築を通じて、次なる成長ドライバー「新たなマテリアル」を創り出す。

抜本的構造改革は着実に進んでいますが、ここからが正念場です。本社間接部門の効率化や拠点・事業の再編、低採算領域の見直しなど、構造改革は既に具体的な実行段階に入っており、成果創出に向けた取り組みも着実に前進しています。私たちが事業ポートフォリオを見直す際に重視するポイントは、その事業が「資源循環ビジネスで未来を創る企業」への変革に資するか、次なる成長ドライバーである「新たなマテリアル」になり得るか、そして中長期的な企業価値向上につながるかにあります。時には長年愛着のある事業からの撤退という苦渋の決断も伴いますが、それは限られた経営資源を成長分野へ集中させるために不可欠なプロセスです。大切なのは、改革を単発で終わらせず、資本効率と成長性の両面から事業ポートフォリオを絶えず磨き続けることです。その判断の軸となるのがROIC経営です。私はROICを単なる数値目標ではなく、各事業が資本コストを上回る価値を生み出しているかを見極める経営の物差しと捉えています。WACC(加重平均資本コスト)とのスプレッドを意識しながら、投資・撤退・再編の優先順位を明確にし、企業価値向上につながる資源配分を徹底していきます。組織構造を最適化し、現場の力や知恵が最大限に活かされる環境を整えることで、改革のスピードを一気に加速させていきます。

10年後を見据えたとき、三菱マテリアルは何を実現する企業でありたいですか?

─資源循環を中核に、新たな価値を創り続ける企業へ。

10年後、三菱マテリアルは、単に素材を供給する企業ではなく、資源を循環させる仕組みそのものを支える企業でありたいと考えています。鉱石由来の資源制約が強まる一方、電動化やAI・データセンターの拡大によって金属資源の需要は高まっていきます。そうした時代に求められるのは、安定供給と環境対応を両立できる企業です。当社は、これまで培ってきた世界トップクラスの製錬・リサイクル技術、E-Scrapの集荷・処理で築いたネットワーク、そして世界トップクラスのタングステン処理能力を活かし、資源循環ビジネスを成長の中核に据えていきます。目指すのは、単なる規模の拡大ではなく、資源循環を軸に、高付加価値化と資本効率の向上を両立する経営への転換です。一次原料に依存した従来型の延長ではなく、回収・再生・再利用までを見据えた循環モデルを実装し、持続的に価値を生み出す企業へ進化していきます。そのうえで、経済的価値と社会的価値を両立し、変化に強く、持続的に企業価値を高める経営を実現していきます。

サステナビリティ経営を、今後どのように企業価値向上へつなげていきますか。

─資源循環を軸に、持続可能性を競争力へ。

サステナビリティは、私たちにとって本業と切り離された取り組みではありません。私たちが目指す「資源循環ビジネスで未来を創る企業」という姿そのものが、持続可能性を起点とした成長戦略です。私は、重点的に取り組むテーマとして、「資源循環の推進」、「人的資本の強化」、「地球環境問題への対応強化」を掲げています。
まず、「資源循環の推進」は、当社の本業に最も深く関わる領域です。私たちは、単に環境対応を進めるのではなく、本業を通じて社会課題の解決と企業価値向上の両立を実現していかなければなりません。私は、サステナビリティを必要な対応にとどめるのではなく、事業機会へと転換し、競争優位につなげていきたいと考えています。
次に、「人的資本の強化」は、資源循環を成長戦略として実行するための基盤です。従業員一人ひとりが変革を自分ごと化し、技術力と現場力を磨くことで、本業を通じた価値創造を支えていきます。あわせて、挑戦を促す風土づくりやリスキリングを進め、変化に対応し続ける組織能力を高めていきます。
一方で、「地球環境問題への対応強化」には、決して理想論だけでは乗り越えられない現実があります。CO2削減については、ある程度まで減らす道筋が見えていても、ネットゼロ達成に向けた最終段階では、技術面・経済面の双方で難度が高いのが現実です。だからこそ私は、課題を過度に美化するのではなく、現実を直視しながら、本業を通じた価値創造と実効性ある打ち手を着実に積み上げていくことが重要だと考えています。経済的価値と社会的価値を両立させながら、変化に強く、持続的に企業価値を高める企業へ進化していきたいと思います。

株主・投資家、そしてグループ従業員に向けて、今一番伝えたいメッセージは何ですか?

─対話を通じて「期待」を「確信」へ。ともに三菱マテリアルの未来を創り上げていきます。

社外取締役やステークホルダーとの対話は、私たちの経営を磨き上げる貴重な機会です。厳しいご意見こそ、私たちが変革を加速させるためのエネルギーとなります。また、異なる視点からの問いや提言に真摯に向き合うことで、経営の解像度は高まり、意思決定の質も磨かれていきます。株主・投資家の皆さまには、私たちの「経済的価値」と「社会的価値」を両立させる姿を、しっかりとお伝えしていきたいと考えています。短期的な業績だけでなく、中長期の変革がどのように収益力と企業価値の向上につながっていくのかを、ぜひ見届けていただきたいと思います。そして従業員の皆さん、皆さんの持つ「人の力」こそが変革の原動力です。会社の目標を自らの役割へと落とし込み、やらされ感ではなく自分ごととして挑戦するとき、変革は初めて本当の力になります。
「資源循環ビジネスで未来を創る企業」への変革を着実に進め、その進捗と成果を対話を通じて丁寧にお伝えしながら、持続的な企業価値向上につなげていきます。