志と情熱を持って
企業価値の向上を牽引していきます。

2025年4月1日、新たに執行役社長に就任しました。1986年に入社して以降、長らく加工事業に携わり、その大半は工場での製品開発や生産技術、製造に関わってきました。私は、入社当初から製造現場のリーダーとして、多くの年上の工場メンバーの方たちを率いる立場を任されておりました。入社したばかりで仕事のことは何も分からない状態でしたが、年上の工場メンバーと話をする中で、「あなたは、知識や経験はないかもしれないが、志や情熱を持って仕事をしていく姿を見せてくれれば、あなたについていく」と言ってもらったのです。それ以後、「志と情熱を持って仕事に取り組む」を私の座右の銘としています。
就任して数ヵ月間が経ちましたが、想像していた以上に大変な仕事だと実感しています。まさに今、2026年度以降の経営戦略の練り直しを進めているところですが、事業をとりまく環境が激変している中で、今後、会社をどのような方向に導いていくか、当社グループとしてどの分野での成長を目指していくかということを、グループ全体を見わたしながら考え続けています。簡単なことではありませんが、当社グループの企業価値向上に向けて、志と情熱を持って全力を尽くしていきたいと思います。

経営方針

社長就任にあたって掲げている経営方針は次のとおりです。

  • 製造現場だけではなく、営業部門や開発部門、本社各部門などの全ての現場力を磨き上げ、イノベーションを起こして世界を相手に戦っていく
  • 新たなマテリアル(お客さまの期待を超える製品やサービス)を創造•提供することにより企業価値の向上を目指す
  • 当社自身が変革することにより、急速な経済環境の変化に対応し、会社を絶えず発展させながら、当社の未来をつくり上げていく

私は会社を変化させ、成長させていく原動力は人の志と情熱だと考えています。以前、事業がうまくいかず撤退した職場を担当した際には「会社がなんとかしてくれる」という言葉をよく耳にしました。会社に依存し、上から言われたことだけをこなしていくのではなく、当事者意識を持って一人ひとりが夢を持ち、強い志と情熱を持って、ベクトルを合わせることができれば、明るい未来を手に入れることができると信じています。当社グループは2024年、新しい価値観を制定しましたので、その価値観の実践を通じて、全ての現場力を磨き上げ、全ての従業員が当事者意識とスピード感を持ち、自らの職場を世界一の職場にしようとアグレッシブに考え、行動できる組織にしていきたいと思います。
そして、私たちの強みは何かと聞かれたときに、特定の製品やサービスだと即座に言える、そんな新たなマテリアル、すなわち、お客さまの期待を超える製品やサービスを創造・提供していきたいと考えています。私自身、当社グループの成長ドライバーとなる具体的な事業や製品が明確に示せていないことは、大きな課題と捉えています。現在見直しを進めている2026年度以降の経営戦略の中でこれを具現化し、お示ししていきたいと考えています。
また、現在の経済環境は、その変化が予想以上に速く、変化の幅も極めて大きくなっています。変化に対応するために、当社自身の変革も進めていきます。

現状認識

中期経営戦略2030(中経2030)Phase1(2023年度~2025年度)の3年間において、当社が想定していた外部環境から大きく乖離したと思っています。自動車産業では、特にEVの普及が一段と加速し、右肩上がりに成長すると想定していましたが、そのような状況にはなっていません。また、半導体産業も同様に成長を見込んでいましたが、コロナ禍の巣ごもり需要の一服後は、需要が落ち込み、現在は、AIサーバー関連は好調ですが、全体としては回復途上にあります。また、米国の関税措置や、EUにおけるさまざまな規制やルールだけでなく、国家戦略として経済をコントロールしようという動きも強まっています。さらに、各国で資源の囲い込みも見られるようになっています。

当社グループの状況としては、投資の面では、中長期スパンの先行投資はおおむね順調に進捗した一方で、外部環境の変化を踏まえて一部投資を中止・延期したことで、短期的な投資リターン、実施済みの先行投資分に対する期待リターンは得られず、投資効率が悪化しています。さらに2025年度は製錬マージンであるTC/RCが極めて低い水準まで低下しており、金属事業の製錬事業の収益は悪化しています。それにより、中経2030の当初計画の達成は難しい状況となっています。こうした現状に対する課題は大きく次の3つと考えています。

  • 中経2030は、需要増を前提とした事業戦略、投資計画となっており、外部環境が大きく変化した際の戦略や計画の見直し対応が十分ではなかったこと
  • 投資のリスク/リターン、効果発現時期を組み合わせた投資配分が必要であること
  • TC/RCが早期に回復しない場合を想定し、リサイクル原料を中心とした製錬事業へのシフトや資源循環ループ構築の早期化が必要であること

これらを踏まえ、外部環境悪化時にも収益性を確保できるよう、「事業基盤の再構築」と「財務体質の改善」という抜本的構造改革が急務と判断しました。中経2030のPhase2である2026年度から2030年度までの計画は一度リセットし、その練り直しを進めるとともに、より早期に手を打てるところはしっかりと打っていきます。

事業基盤の再構築

事業基盤の再構築においては、とりわけ、資本効率を高めていくことが最も重要なポイントと考えています。当社グループは、投資に対しての利益が低く、ここに早急に手を入れていく必要があります。リターンの最大化、率にこだわったROIC経営の徹底に取り組み、量から質への転換を図ります。
各事業部門においては、利益を上げている製品・サービスはどれかということをよく選別して、注力する分野には経営資源を集中して投じ、全社を挙げて取り組んでいきます。一方で、利益の低いものからは撤退したり、場合によっては事業ごとカーブアウトしたりすることも必要になるかもしれません。具体的なKPIを設定し、しっかりと評価をしながら成長するべきところで成長し、絞るところは絞っていく考えです。コーポレート部門においては、無駄な業務の廃止、業務の簡素化・標準化、共通業務の集約・効率化やシェアードサービス機能の利用拡大、要員管理徹底を通じた組織の合理化の加速といった最適化を進めるとともに、R&Dテーマの選択と集中やDX戦略の再構築も行い、全社を挙げて資本効率の向上を進めていきます。
既に金属事業では小名浜製錬社における銅精鉱処理の縮小について具体的な検討を行っているほか、銅加工事業では生産体制の最適化と事業成長の加速を目的とした堺工場と三宝製作所の組織統合に向けた準備を進めています。これらに留まらず、スピード感を持って、短期間で事業基盤の再構築を実行しています。

財務体質の改善

財務体質の改善については、ベースとなるのは資本効率、ROICの改善です。ROICの向上を図るためには、分子である利益を拡大していくとともに、分母である投下資本をスリムにしていかなければなりません。ROICを分解して、それをしっかりと現場に落とし込んで、改善していきたいと思います。また、当社では、従来はキャッシュ・フローよりも利益を重視する傾向がありましたが、今後はキャッシュ・フローをより意識して経営を進め、営業キャッシュ・フローが厳しいときには投資にブレーキをかけるなど、柔軟、かつ適切に投資配分をコントロールしていく必要があると考えています。格付けなども考慮すると、有利子負債の圧縮も必要です。改善したキャッシュ・フローを有利子負債の圧縮に回すことで、ネットD/Eレシオをさらに改善させたいと考えています。これらに加えて、事業基盤の再構築における改革も組み合わせて、投下資本を小さくすることに努めていきます。一方、分子である利益の拡大のためには、コスト削減はもちろんのこと、製品を一定水準の価格で提供することにも取り組んでいかなければなりません。事業や製品によって状況は異なりますが、製品・サービスのコストパフォーマンスを高めて、価格を上げていく取り組みも進めていきます。

サステナビリティ課題への対応

私たちが今後も企業として存続していくためには、さまざまなサステナビリティ課題への対応も不可欠と認識しています。当社グループでは、サステナビリティ課題=マテリアリティという考えのもと、現在11項目のサステナビリティ課題を設定して取り組みを進めていますが、その中でも特に重点的に取り組んでいきたいのは、「資源循環の推進」、「地球環境問題対応の強化」、「人的資本の強化」の3つです。資源循環に関しては、限りある資源を消費し続ける社会から、資源を循環させて有効活用する社会への移行が進んでいる中で、今後の当社グループの柱とするべく、全社の資源を投入して拡大を図っていきます。
地球環境問題については2026年度から日本でも排出量取引制度の本格運用が始まる予定であることなどを踏まえて、適切に対応していかなければなりません。当社グループの目標である2045年度のカーボンニュートラル実現に向けて、取り組みを一層強化していく必要があります。
また、人的資本の強化については、既に人材不足の問題が顕在化しつつあり、人材獲得に加え、従業員のスキルアップにも注力していく考えです。

加えて、SCQへの対応にも、従来通りしっかりと取り組んでいきます。S(Safety & Health)については、労働災害の撲滅です。2024年度に全社的なアンケート調査を実施しましたが、当社では管理者側と現場のどちらも全ての災害はなくすことができるという信念が低いという結果が出ています。災害が起こっても当たり前だという雰囲気が一部にあると感じられます。しっかり是正していかなければなりません。2024年の後半から取り組みを強化しており、会社の土台として全ての労働災害の撲滅に取り組む決意です。C(Compliance & Environment)については、ハラスメントや飲酒運転などが、増加傾向にあります。今まで隠れていたものが表に出てくるようになってきたとも言えますが、件数として増えており、これらの撲滅にもしっかり取り組みます。Q(Quality)の品質については、お客さまに不良品を提供しないための防止策から、工程内で不良品が出る前にしっかり傾向管理をしながらコントロールを実施する、攻めの品質管理のステップに移行しています。これをさらに加速させ、結果としてお客さまからのクレームの低減につなげていく考えです。

終わりに

2025年度は、今後の当社グループの企業価値向上のために非常に重要な1年となると考えています。スピード感を持って事業基盤の再構築と財務体質の改善を実行するとともに、中長期的な成長の姿、世界で戦える企業となっていく姿をステークホルダーの皆さまにしっかりとお示しするべく、グループを挙げて取り組んでまいります。私自身、志と情熱を持って当社グループの企業価値向上を牽引していく覚悟ですので、皆さまのご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。